旅日記TOP / 魚津埋没林 ~古代に存在した巨樹林の記憶~
魚津埋没林 ~古代に存在した巨樹林の記憶~(2019.09)
(写真:水中展示館の杉樹根)
魚津埋没林とは
魚津埋没林は弥生時代の後期頃に繁茂していたとされる、杉を主体とした森林の跡。 弥生時代は今よりも冷涼な気候で、海水面が2mほど低い状況でした(弥生の小海退)。 その後、温暖化により徐々に海水面が上昇。 それに伴い地下水位も上昇。 約1800年前頃からこの森林の足元は湿地化が始まり、約1300年前頃までに多くが枯死。 その後、片貝川の扇状地であるため土砂に覆われ、そして海中に没していきました。 昭和4年(1929)に始まった魚津港の築造工事の際、 おびたたしい数の樹根と少数の倒木、埋没林が発見されました。 その後に樹根や地層の調査研究が行われた結果、昭和30年(1955)に特別天然記念物に指定。 古代の森林の植物相や動物相、および気候や地勢を知る上で大変貴重なもの。 現在は保護指定地の真上に建てられた博物館で、 巨大な樹根をはじめに、出土した様々なものを見学できます。
博物館の展示資料.埋没林と保護指定地の範囲.
博物館の展示資料.初期の研究では埋没の原因は地盤沈降と考えられた.
博物館の展示資料.現在の研究結果では埋没の原因は海面上昇とされる.
参考文献「埋没林のはなし」より引用.埋没林の形成過程の図.
【 魚津埋没林博物館の地図 】
以下、魚津埋没林博物館の基本情報と、主な情報源とした参考文献です。 「埋没林のはなし」は博物館の本館1Fで購入可能。 \100という安さに驚きました(2019年9月時点)。 皆さんもお買いなさい。
■ 埋没林のはなし:著者・麻柄一志、発行・魚津埋没林博物館、発行日・1992年3月31日
■ 所在地 :富山県魚津市釈迦堂
■ ホームページ:https://www.city.uozu.toyama.jp/nekkolnd/
■ 電話番号 :0765-22-1049
■ 入館料金 :\640 (高校生以上)、\260(小中学生)
■ 開館時間 :9時~17時(入館は16時30分まで)
■ 休館日 :12月1日から翌年3月15日までの木曜日(祝日の場合は開館)、12月29日~1月1日
■ アクセス :車、北陸自動車道・魚津ICから約3㎞(無料駐車場100台分)
:鉄道、あいの風とやま鉄道・魚津駅または富山地方鉄道・新魚津駅から約2㎞
※最新の情報はホームページを確認してください
魚津埋没林博物館・水中展示館
博物館の目玉は何といっても水中展示館。 出土した3株の大きな樹根を、そのまま巨大な水槽で覆った施設です。 中央の樹根は端から端まで10mもあり大迫力。 また館内に展示されているものの中でも、特に保存状態が良い。 およそ2000年前に生きていたものとは思えないほど。大興奮の施設です。 さて、何故に水漬けで保存されているのか。 これは埋没林が残された秘密である地下水を利用したもの。 砂礫層の下にある粘土層、埋没林と重なる泥炭層には地下水が浸透していました。 密閉されたこの層に、冷たく綺麗な地下水が流れることで、今日まで腐食を抑えてきたとされます。
魚津埋没林博物館・乾燥展示館とドーム館
博物館では水中展示館の他にも大きな樹根を展示している施設が2つあります。 まずは隣り合う建物の乾燥展示館。 魚津港の修築工事中に出土した樹根2株、樹幹1本を展示。 ここではお触りOKなので、古代杉の感触を実感できる。 直径5mほどもある樹根は迫力があります。 なお樹幹は少数しか発見されていないという。 倒伏まで地表に晒されるため、地中に密閉されるものが少なかったからでしょう。 ドーム館は半地下の建物で、平成元年に発掘調査が行われた場所を覆った施設。 複数の樹根が発掘時の状態で保存され、地層の一部も展示されています。 なお埋没林に関する解説の展示パネルは、ドーム館に多めにあります。
なお、魚津埋没林博物館で目にできる出土した古代杉は、 樹根と樹幹を含めて全部で11株ほど(木片など除く)。 1930年代の魚津港修築工事では、杉以外の樹種も含めて、 200株を超えるものが発見されたという。 その多くは撤去され、 戦後の燃料不足の時には薪にされるなど、失われていったそうです。
魚津市に現存する巨杉の森・洞杉巨木群
魚津埋没林の存在は、古代の富山県は平野部にも海岸付近まで、 杉を主体とする森林が広がっていたことを物語る。 上市町にある江上遺跡群の地層からは、弥生時代から古墳時代にかけて、 杉の花粉が他の樹種よりも多く発見されているそうです。 現在、県内の平野部には、杉の天然林はほぼ残っていません。 奈良時代以降から全国的に活発化する、水田の開拓も影響しているでしょう。 現在、県内で見られる杉の天然林は、殆どが山間部に分布。 立山連峰の山麓に多いため、立山杉と呼ばれています。 有名なのは立山黒部アルペンルートの玄関口、 美女平にある巨木群(標高1000~1200m)。 そして平成に入って新たに発見されたのが、 魚津市内の山域、片貝川上流の南又谷(標高500~700m)に生育する洞杉の巨木群。
洞杉の詳細については以下記録を参照ください。 豪雪地で険しい渓谷の、急斜面や大岩の上に根差した、異形の巨杉たちが織り成す神秘の森。 平野部に生育した魚津埋没林とは様相が異なるでしょうが、 古代に存在した巨樹の森の息吹を実感できると思います。 他にも市内には「大沢の地鎮杉」「黒沢稲荷神社の杉」という巨木も残されているので、 併せて訪れてみることをお勧めします。
■ 洞杉巨木群 :猫又山の山麓、片貝川上流域の南又谷に生育する巨杉群
■ 大沢の地鎮杉 :大沢地区、布施川沿いの台地にある巨木、幹周約11m
■ 黒沢稲荷神社の杉:大沢地区、大沢の地鎮杉のすぐ近く、水田の中にそびえ立つ
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